創業105年、新宿の路地裏に行列が絶えない理由。令和の時代に「王ろじ」の伝統とん丼が世界を魅了するワケ
とんかつ 王 ろ じは、大正10年(1921年)の創業から100年以上の歴史を紡いできた、新宿を代表する老舗名店だ。超高層ビルがそびえ立ち、めまぐるしく変化を続ける2026年の新宿三丁目において、この店だけは昭和、いや大正の面影を残したまま、変わらぬ暖簾を掲げ続けている。平日・週末を問わず、狭い路地には開店前から香ばしいラードの香りに誘われた人々が長い列を作る。
多くのグルメファンが目当てにするのは、丼から溢れんばかりの存在感を放つ名物「とん丼」だ。カツカレーの元祖とも称されるこの唯一無二のメニューを求め、最近ではSNSを頼りにやってくる外国人観光客の姿も目立つようになった。新宿の喧騒のなかにひっそりと佇むとんかつ 王 ろ じの扉を開けると、そこには時代を超越した特別な時間が流れている。
大正から令和へ紡ぐ「105年目の暖簾」と新宿の変遷

新宿駅東口から徒歩数分。伊勢丹新宿店の裏手に位置する細い路地は、常に新旧のカルチャーが交差する場所だ。再開発が進み、AIを活用した無人店舗やネオンきらめく最新ビルが立ち並ぶ2026年の現在において、この一角だけはまるで時間が止まったかのようなノスタルジーを漂わせている。
創業は1921年。関東大震災や第二次世界大戦といった激動の歴史を乗り越え、初代が考案した味を守り抜いてきた。移り変わりの激しい東京の飲食業界において、1世紀以上も同じ場所で愛され続けることは奇跡に近い。しかし、そこには奇跡の一言では片付けられない、徹底したこだわりと客への誠実さがある。
名物「とん丼」が唯一無二であり続ける理由
ここを訪れる客の多くが注文するのが、看板メニューの「とん丼(カツカレー)」だ。一般的なカツカレーを想像して注文すると、目の前に運ばれてきた器を見て驚くことになる。深めの丼に盛られたご飯の上に、スパイシーでどこか和風のコクを感じるカレーソース、そしてその上に鎮座するのは、俵型をした極厚のトンカツだ。
このカツは、豚のロース肉を丁寧にロール状に巻いて揚げたもの。箸で持ち上げるとずっしりと重く、口に運べばサクッとした衣の食感の後に、溢れんばかりの肉汁が広がる。カレーの辛さと、肉の甘み、そして少し甘めのソースが三位一体となり、スプーンを動かす手が止まらなくなる。
2026年のインバウンド旋風と「TOKYOクラシック」の価値
現在、東京のグルメシーンは空前のレトロブームに沸いている。特に海外からの旅行者にとって、単なる高級店ではなく、「その土地の歴史が染み込んだローカルフード」を体験することが最大のステータスとなっているのだ。スマホを片手に路地裏を覗き込み、暖簾をくぐる外国人観光客の数は、ここ数年でさらに急増した。
英語や多言語での情報がネット上に溢れる2026年だからこそ、彼らは本物の「TOKYOクラシック」を求めている。店内に響くカツを揚げる音、店員たちの無駄のない動き、そして長年使い込まれたカウンターの質感。そのすべてが、旅のハイライトとして彼らの記憶に刻まれていく。
職人技が光る「サクッ、ジュワッ」の極厚カツの秘密
王ろじの美味さを支えるのは、妥協のない素材選びと職人の技術だ。使用する豚肉は、ジューシーで旨味が強い部位を厳選。それをじっくりと低温で揚げ、仕上げに高温で一気に衣を立たせる。この絶妙な火入れ加減こそが、肉の柔らかさを保ちつつ、油っぽさを感じさせない秘訣だ。
また、衣に使用するパン粉や、揚げるためのラードの配合も、長年の経験に基づいて微調整されている。気候や湿度によって変化する粉や肉の状態を見極め、常にベストな状態で提供する。この職人の「目利き」と「手仕事」があるからこそ、何度訪れても変わらない感動を味わうことができるのだ。
変わらないことの難しさと、受け継がれるプライド
デジタル化と効率化が極限まで進む現代社会において、「昔ながらの手法」を守り続けることは容易ではない。原材料費の高騰や人手不足など、老舗を取り巻く環境は年々厳しさを増している。それでも、彼らは安易な機械化や味の簡略化に走ることはない。
「変えないために、変わり続ける」。時代に合わせた細かなブラッシュアップを重ねながらも、本質的な味と温かいもてなしの心は頑なに守り抜く。新宿の路地裏で今日も漂うあの香ばしい香りは、単なる料理の匂いではない。それは、100年以上続いてきた日本の食文化のプライドそのものなのだ。 (出典: とんかつ 王 ろ じ(Yahoo!ニュース))